- 散歩に行きたがらない、歩く距離が短くなった。
- 歩く速度が遅くなった。
- 段差の上り下りを嫌がる、できなくなった。
- ふらついている。
- どこか足をかばっている。
- 関節が腫れている、曲らない。
- 立っている姿勢やお座りの姿勢がおかしい。
- 体を触られるのを嫌がる、怒る。
こんな症状はありませんか?
整形外科専門外来について
上記の症状が見られる場合には、骨・関節・腱・靭帯・筋肉といった運動に関与する器官に問題がある可能性があります。診察は問診・身体検査・必要に応じて画像検査や血液検査などを実施し、総合的に診断をします。
また、高度医療が必要な場合には大学病院などの二次診療施設をご提案させていただくこともできますのでご相談ください。
ワンちゃん、ネコちゃんが痛みなく元気に動けるよう、インフォームドコンセントのもと最適な治療方針をご提案させていただきます。
担当医 松葉 賢治
獣医整形外科 AO VET principale course 修了
獣医整形外科 AO VET advanced course 修了
Depuy Synthes VET主催 VET Spine セミナー修了
日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅱ種
骨折
原因
多くは交通事故・落下などの強い衝撃が原因です。
最近では交通事故による骨折は少なくなりましたが、室内飼いの小型犬では前肢が細く衝撃に弱いため、抱っこ中に誤って落下したり、ソファやイスから飛び降りて骨折してしまうケースが増えてきています。
治療
ほとんどの場合は全身麻酔下での手術による骨折の整復と固定が必要となります。
小型犬の前肢骨折(橈骨・尺骨の骨折)は骨の端で起こりやすく、手術による固定が困難であったり、骨折部位の周囲の筋肉や血流が乏しく、骨の治りが悪いこともあります。しっかりと骨癒合(骨がくっつく)が得られるように、骨折の部位や折れ方・年齢や気質を考慮し、最適な治療法を選択する必要があります。
当院では整形外科器具・機材を導入し、それぞれの骨折に応じた各種治療法が行えるように努めております。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼とは
膝関節には膝蓋骨というお皿の形をした骨があります。正常な膝蓋骨は筋肉や靭帯、関節包によって支えられ、大腿骨の滑車溝とよばれる溝の中に収まり、膝関節の曲げ伸ばしに伴い滑車溝の中で上下に動きます。膝蓋骨が滑車溝から外れる(脱臼する)ことを膝蓋骨脱臼といいます。膝蓋骨が膝関節の内側に脱臼する場合を内方脱臼、外側に脱臼する場合を外方脱臼と言います。
膝蓋骨脱臼は小型犬に多い病気ですが、大型犬にもみられます。脱臼の方向は小型犬・大型犬ともに内方脱臼が多く認められています(内方脱臼:全体の約90%、外方脱臼:約10%)。また小型犬は先天的に膝蓋骨が滑車溝から外れやすく、多くは内側に外れます。
脱臼の重症度は以下のように分類されております。
膝蓋骨脱臼の重症度 | |
---|---|
正常 | 膝蓋骨は脱臼しない。 |
1 | 手で押すと膝蓋骨が脱臼するが、手を離すと正しい位置に戻る。 |
2 | 膝の曲げ伸ばしなどで自然に脱臼と整復が繰り返し起こる。 |
3 | 膝蓋骨は常に脱臼している。手で押すと正しい位置に戻すことができるが、手を離すとまた脱臼する。 |
4 | 膝蓋骨は常に脱臼している。手で押しても正しい位置には戻らない。 |
原因
膝蓋骨が外れる原因は明確に解明されておりませんが、大きく「先天性」と「外傷性」の2つに分けて考えられます。小型犬では先天性の膝蓋骨脱臼が多く、成長期(3~5ヵ月齢)に膝蓋骨が脱臼し、成長とともに骨が曲がったり、膝の曲げ伸ばしが困難になったりします。外傷性の膝蓋骨脱臼は、転倒や落下、ジャンプなどの外力によって膝蓋骨を安定化させる膝の靱帯や腱、関節包が損傷し、脱臼が起こります。
症状
成長期にゆっくりと進行していく場合には痛みがなく、無症状のことも珍しくありません。しかし急激に脱臼の重症度が悪化した場合や、長期に渡り膝蓋骨が脱臼した状態が続き関節軟骨が削れた場合、骨の変形、膝関節の靭帯損傷が起こった場合は痛みや跛行(ビッコ)が生じます。
治療
治療には保存療法(内科治療)と外科治療があります。重症度や年齢、体重、活動性、合併症の有無のなどから総合的に判断し、ベストな治療方法を選択します。
脱臼があっても症状がみられない場合や、軽い症状であったり、脱臼の頻度が低い場合には、保存療法(内服薬、サプリメント、注射、運動制限、リハビリテーションなど)で経過をみることがあります。しかし膝蓋骨脱臼は膝蓋骨の脱臼という物理的な異常が問題であるため、保存療法では脱臼は通常改善しません。根本的な治療は手術による脱臼の整復となります。そのため症状が出ている場合や、持続的に脱臼が見られる場合には麻酔や手術の合併症のリスクはあるものの、外科的治療による整復術が望ましいと考えられます。
手術はそれぞれの症例の状況に応じて、複数の術式を組み合わせて行います。
当院での手術は膝蓋骨を本来の位置に戻し維持できるように、下記の術式を組み合わせて行います。
・滑車溝造溝術
・脛骨粗面転移術
・内側支帯解放術
・外側支帯縫縮術
・その他
術後の経過に問題がなければ5日程度で退院になります。
費用は術前の併発疾患や合併症がなければ24〜26万円(税抜)ほどかかります。また術後も関節が安定するまではしばらく安静にする必要があります。
膝蓋骨内方脱臼 症例
術前 | 術後 | ||
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犬種 | ポメラニアン |
年齢 | 1歳1ヶ月 |
体重 | 3.0kg |
性別 | 避妊・メス |
右後肢の膝蓋骨内方脱臼 重症度3 この症例は滑車溝造溝術、脛骨粗面転移術、内側支帯解放術、外側支帯縫縮術を実施しております。術後は膝蓋骨は正常位置に矯正され、脱臼は認められておりません。 |
前十字靭帯断裂
前十字靭帯断裂とは
前十字靭帯は膝関節の中にある大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯であり、後十字靭帯とクロスして存在し膝関節の安定性に関与しています。前十字靭帯は、大腿骨に対して脛骨が前方へずれるのを制御したり、脛骨が内側に向きすぎないようにしています。
前十字靭帯は線維の束であり、断裂は部分断裂と完全断裂に分けられます。
前十字靭帯が完全に切れてしまうと、大腿骨に対して脛骨が前方へ変位するのを制御できなくなり、負重時に脛骨の前方変位が生じます。また大腿骨と脛骨の骨の間には半月板というクッションが存在しますが、前十字靭帯断裂により膝関節が不安定な状態が続くと、この半月板が大腿骨と脛骨に挟まれて損傷することがあります。
原因
ヒトの前十字靭帯損傷はほとんどが外傷性であり、スポーツ選手が競技中に発症することが多いです。しかし犬の場合は前十字靭帯の加齢性変化(変性)が関与するとされ、散歩などの日常生活の中で靭帯の断裂が生じます。
また、犬の前十字靭帯損傷は靭帯の変性が要因の1つであり、片側の前十字靭帯が断裂した場合には、約40%の確率で反対側の靭帯損傷が生じるとされています。前十字靭帯断裂の診断時に反対側の膝のレントゲン画像に異常が認められる場合、反対側での靭帯断裂の発生率は60%以上になると報告されています。
症状
前十字靭帯の断裂が生じると、突然の跛行(ビッコ)を示します。症状は1週間程度で良化することもありますが、半月板損傷が起こると、痛みから跛行が続くことがあります。
治療
治療は保存療法と外科療法に分けられます。
保存療法
保存療法ではケージレストや痛み止めなどの投薬を行います。断裂した前十字靭帯が再生することはありませんが、膝関節の周囲組織が増生し関節が安定化するのを待つ方法です。
体重が軽い犬では保存療法によって症状が改善することもありますが、膝の不安定が残ったり、外科療法に比べて関節炎が進行しやすい傾向があります。また保存療法で症状の改善が乏しい場合は、半月板を損傷している可能性があるため、外科療法に切り替える必要があります。
外科療法
外科療法では痛みの原因を除去し、膝関節を安定化させます。
損傷した半月板や断裂し残存した前十字靭帯が痛みの原因となるため、関節内を調べ必要に応じ除去します。膝関節を安定化させる術式は多数存在しますが、当院では関節外法のFlo法(変法)、または矯正骨切り術の脛骨高平部水平化骨切り術(Tibial plateau leveling osteotomy;TPLO)という術式を行なっております。
Flo法(変法)
関節を覆う袋状の構造である関節包を外側から糸で縛って膝関節を安定化させる方法です。
この方法では多くの機材を必要とせず実施できるシンプルな術式ですが、関節包を外から糸で縛るため術後に違和感が残る可能性があります。また縛った糸に緩みが生じると膝の不安定が生じる可能性があります。
TPLO
脛骨の骨端で大腿骨から体重を受ける部分を円形状に切って向きを変えることで、負重時に脛骨を前方変位させる力を中和する方法です。この術式では緻密な術前計画や特殊な刃で骨を円形に切ったり、切った骨をプレートとスクリューで固定する必要があります。そのためFlo法と比較して多くの器具や作業が必要になりますが、術後の機能回復が早く、受傷後に起こる関節炎の進行も緩徐であるとの報告があります。
術後の経過に問題がなければ5〜7日程度で退院になります。
費用は術前の併発疾患や合併症がなければ30〜35万円(税抜)ほどかかります。退院後も骨や関節が安定するまではしばらく安静にする必要があります。
前十字靭帯断裂(TPLO) 症例
術前 | 術後 | |||
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犬種 | チワワ |
年齢 | 2歳4ヶ月 |
体重 | 3.2kg |
性別 | 避妊・メス |
脛骨高平部角度(TPA)は術前の26.0度から術後は6.0度に矯正され、脛骨の前方への滑り出しが消失しました。 骨切り後はVOI社製のTPLOプレート1.5mmにて固定しています。 |
予後
前十字靭帯断裂が生じると、手術を行なっても慢性関節炎はゆっくり進行していきます。しかし手術により痛みの除去と、膝関節の安定化が得られればいずれの術式でも長期的な予後は良好とされています。
手術方法によって成績や回復にかかる時間、合併症、かかる費用が異なるため、症例に応じて最適な方法を飼い主様と相談し実施できるよう努めております。